オーダーメイド珈琲「珈琲の仕立て屋」〜焙煎屋 森山珈琲〜
「どのようなコーヒーがお好きですか?」
コーヒーショップに訪れて、そんな質問をされたことはなかった。
あいにく、私はコーヒーについても初心者である。
「そうですね、あまり酸味の強くない…いえ、やっぱりスタンダードなものをお願いします」
そう悩みながら答えた私に、
「それでは…」と優しく答えてくれたのが「焙煎屋 森山珈琲」のマスター、森山利忠氏である。
小倉北区宇佐町に店を構える森山珈琲。
この場所に移転してから6年が経つ。
初めての方でも入りやすいカジュアルな雰囲気と店先まで漂う珈琲の香りに、取材中も沢山の方が店内へと誘われていた。
カウンターの後ろに並ぶコーヒー豆、店の奥にのぞく焙煎機に思わず見惚れてしまう。
普段利用しているカフェや喫茶店と大きく違うのは冒頭の森山さんの問いかけ。
「どんな珈琲がお好きですか?」
それは今まで当たり前だった、メニューを見たお客様の注文をマニュアル通りにつくる、またはあらかじめポットに入っていたコーヒーを注ぐだけ、という流れを疑いたくなる台詞だった。
この問いに身構える必要はない。
特にこだわりがなければ「よく分かりません」それでいいのだ。
私には”エチオピアのモカ”を淹れてくれた。
この豆は香りが特徴的で、飲んだ瞬間花を咲かせながら鼻を抜けていく香りに一瞬でとりこになった。目を見開く私に「せっかくなら、こういった華やかなフレーバーの珈琲はどうかなと思いまして」と森本氏は優しく微笑んだ。
もう一杯お願いしたのは、スペシャルティ珈琲。
この日初めて耳にしたワードにきょとんとする私に、スペシャルティ珈琲とは何か、そんな基礎から丁寧に話してくださった。
なんとも、世界各国で厳しい審査に合格した高品質の豆がそう呼ばれるという。
世界的にも収穫量が少ないこの珈琲豆を、森山珈琲はその歴史と信頼により直接買い付けを実現させている。
この日いただいたのは”ホンジュラス”先ほどのエチオピアのモカとは違う道具と淹れ方で私の目を釘付けにする。
一口飲んでまた目を見開く。
今度は爽やかな酸味が駆け抜けていく。
しかしこの酸味、明らかに今まで感じたものとは違う。
透き通っていて後に残らないクリアな刺激とでもいうのだろうか。
酸味が舌で「見える」。
そんな感覚は生まれて初めてだった。
更に面白いのが、時間が経つほどに味が変化していくのだ。
そして、それが自分の舌でわかることに驚きを隠せなかった。
高校卒業後、東京の専門学校に通いながら喫茶店で珈琲の修行を重ね、24歳のとき帰郷して店を立ち上げた。
その後長きにわたり、北九州にスペシャルティ珈琲や、珈琲の真の魅力を広めている森山氏を、人は「珈琲の伝道師」と呼ぶ。
私が森山氏を前にして思い浮かんだ言葉は「珈琲の仕立て屋」。
目の前のお客様にじっくり向き合い、採寸するかの様に丁寧に導き出された一杯は、まさにその人だけのオーダーメイド珈琲である。
作り手と受け手の間には、どれほど頑張っても交わらない部分がある。
音楽にしてもそうだ。
アーティストとして作品にこだわるほど、そのギャップは大きくなる。
大衆的であることは大切な要素だ。
しかし、決して「売れ線」といわれるものやビジネスに傾倒したものではなく、どこまでも「本物」を提供していく。
自分やお客様に嘘はつかないという姿勢を大切にするべきだと、森山氏の珈琲を淹れる姿から改めて感じたのであった。
優しい笑顔の奥深くから、珈琲に対する愛情、お客様への感謝、職人としてのこだわりが垣間見えた取材であった。
コーヒーカップから感じたあの衝撃を、今後忘れることはないだろう。
コーヒー好きの方はもちろん、私のようなルーキーこそ楽しめる「焙煎屋 森山珈琲」。
珈琲の本当の魅力を教えてくれるこの場所で、あなただけの一杯を仕立てて貰ってほしい。
記事=波多野菜央
森山珈琲 中津口店
北九州市小倉北区宇佐町1-3-35
店舗前に有料パーキングあり
TEL/080-2793-6842
営業時間/12:00~19:00
定休日/不定休
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