運命という救いがあるから傷痕も美しい⁉

「殺人に関する短いフィルム」
「愛に関する短いフィルム」
「トリコロール」
三部作と、多くの傑作を生み出し、51歳の若さで急逝したポーランドの巨匠、キェシロフスキの遺稿(原題=地獄)を映画化したのが本作。

父と母、3人の娘。その父を大好きな1人の少年が、父に会いに来た。その男の子は自ら裸になって父に甘えようとする。(彼がファザコンのバイセクシャルだったと予想はつくが)

その現場を娘(長女)に見られてしまい、父親は訴えられてしまう。
そこから家族に、夫婦に、子供の心に傷、亀裂が入り、考えられない人生が始まる。
父が無実であったことが、その少年が成人して大人になってから二女に会い、真実を語る。
娘3人はなんという心の傷を背負って生きてきたのだろうか。
長女、次女、三女と、それぞれが男性に対しての愛情の捉え方、表現方法が違う。

それを3人の女優が実に自然に演じて、3人姉妹の個性の違いが違いが痛々しくも美しく、恐ろしくもある。
父親はとんでもない事故に合った人生で投獄され出所するが、失ったものは戻らない。
母親は父親を信じることが出来なかった故に、精神と神経をやられてしまう人生を歩むことになる。
皆が皆、傷つく。が、その傷がやがて美しい運命の傷痕として…。
運命と偶然。運命である方が受け入れやすい。
偶然とは、とんでもない。根拠がないと人間は、理由がないと、原因がわからないと、人間は生きていけない。
運命というものは、救いのある宿命であり、同時に運命であるから、善も悪もいつか、やがて来る時が来ると受け入れられる。
それが傷跡で残っていても…。

冒頭に小鳥が卵をかえし、ヒナ鳥が他の卵を巣から捨てようと必死になっている映像が出てくる。
自然界とは善も悪も生きるために存在するかのような美しさと、残酷さを秘めた宇宙観か。
キェシロフスキ監督は、フランスやイタリアの芸術に多大なる影響を与えている。

娯楽作品ではなし、芸術とも哲学とも言える映画とは、まるで絵画のように永遠に輝くのだ。


映画「美しき運命の傷痕」
(2005年フランス・イタリア・ベルギー合作)
監督/ダニス・タノヴィッチ
出演/エマニュエル・べアール、
ジャック・ペラン、カリン・ヴィアール/他

Oimachi Act./おい街アクト

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