ポーランドの巨匠、キェシロフスキの「傷跡」にある"哲学性"
ポーランドが生んだ巨匠、キェシロフスキ監督の長編劇場映画デビュー作が「傷跡」。
1976年作品。
70年代の初頭。ポーランドの雄大な自然に囲まれた田舎町、オレツコに最大規模の化学肥料土壌が誘致された。
住民の反対運動、反対意見は聞き入られることなく、国をあげての一大プロジェクトになった。
かつてその町に住んだ建築技師のステファンが、工事現場の監督官に使命される。
妻や娘を残し、単身オレツコへ。
最善を尽くし、精力的に仕事をこなしていく。
が、森林は伐採され、住宅も取り壊されていき、住民たちの不満は爆発寸前。
それでも土壌建設が町のために利益を大きくもたらすことを信じるステファンだった…。
ドキュメンタリーとドラマの二つの要素を合わせた物語として、映画は進んでいく。
70年代のポーランドの政治状況を描きながら、人間の本質をえぐり出した秀作。
キュシロフスキの一連の作品は、古さを感じさせない。人間の本質をたえず描き続けている。
現実の力によって、理想が打ち砕かれていく人間の宿命を、見事に描いている。
何度観ても、新しい観点から映画を鑑賞できる。
この偉大なる巨匠の作品を知ると、必要のない映画が実に多いことにも気付く。
監督、脚本、役者、カメラワーク。映画に生命力を注ぐものは、製作費ではない。
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