映画「父、帰る」。崩壊後のロシアを知る作品ではあるが、現代人に鋭く問いかけを放つ名作としてお薦めしたい。
誰もが人生で経験する和の崩壊。
子供時代によくある話。
仲良しの友達が転校してきた新しい友達と
仲良くなることに対する違和感。
それを友達に向けるか、新しい仲間に向けるか、
嫉妬と自制心の葛藤。大人になっても起こりうる。新入社員が人気者になり、
その座を奪われそうになることからくる、
先輩であるがための焦り、悔しさ、若さへの妬み。
社会で起こっているイジメ、
パワハラ問題の根となる、和を保つことの難しさ、
敵を作り和を保つ人間の本能の
側面に見られる弱さ、
未熟さがモチ ーフの一つにもなっている作品。
この映画では、場は家庭。
母親とささやかに暮らしていた兄弟のもとに
家を出たきり帰ってこなかった父が
12年ぶりに帰って来ることで環境が変化する。
写真でしか知らなかった父の出現に、
三人三様の戸惑いが生じてしまう。
特に次男は生まれて間もなく
父がいなくなったため、
父としての実感がまるで持てないことから、
激しく反抗する。
今までのままで良かった。
父親が邪魔者 にしか映らない。
父親も無口で何の説明もしない。
母親も父親とは他人行儀で、
子供たちに無理に納得させようとはしない。
説明がつかないほどの事情が、
母親にもあったのかと勘ぐってしまう。
ギクシャクした家族。
見る側は自分の子供時代と重なってきたりする。
両親の笑い声さえ聞くと、
それだけで安心したことを。
仲の良くない両親との生活は、
子供に不安感をたえず与え、神経質な子が育つ。
やがて会社での人間関係にも飛び火していく。
父親は男の子、二人を連れ出す。
男三人の小旅行でコミュニケーションをとり、
父親の役割を演じる必要があると気付いたからか。
結末はいかに。
2003年ヴェネチア国際映画祭で
グランプリ金獅子賞、新人監督賞、他
世界各国での映画祭でも評価された秀作。
(ロシア作品・監督=アンドレイ・ズ
ビャギンツェフ第一回作品)
隣近所から夫婦喧嘩、親子喧嘩が聞こえてきた
子供時代を過ごした筆者には、
閉鎖感が強くなりすぎた住宅そのものが、
人に優しく出来ない人を作っていく
環境とも思えるが。
なら、どうするべきか。答えは未だ。
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