北九州市立美術館コレクション展Ⅲ 特集『鉄』
【取材・文・撮影=鶴田弥生】
美術館に足を運ぶ前は、鉄を使った作品が並んでいるのかと思っていた『鉄』と名付けられたコレクション展。
『鉄』と言われると、反射的に我が事と捉えるのは北九州市に住む私たちならではないか。チラシにも記されているように、この街には鉄に関する地名がよくある。八幡東区には「東鉄町」「高炉台公園」。八幡西区には「鉄王」「鉄竜」など。官営八幡製鐵所が開業したのが1901年。鉄の都として発展した時代があった。今回の展示は「鉄がやってきた、新しい時代が始まる」「そこに石炭があった」「八幡製鐵で働き、描いた画家たち」「国際鉄鋼彫刻シンポジウム」など全7章で、『鉄』という視点を用いながら浮世絵から現代美術まで様々な作品や資料を介してこの街の歴史を振り返っている。
製鐵ができたことで、全国から人がやってきた。大正浪漫を代表する画家で詩人の竹久夢二も、日本を代表する建築家の村野藤吾もその一人。もともとは洞海湾に面し塩田が広がる人口2,000人ほどの小さな村に過ぎなかった八幡に、文化が生まれる土壌ができていった。
1963年に五市対等合併により北九州市が誕生。1974年に北九州市立美術館が開館する時には、企業や個人から作品の寄贈が多数あった。新日本製鉄(現日本製鉄)からは、パブロ・ピカソ「ヴォラールのための連作集」が寄贈された(『鉄』でも展示)。そして、この様な特性を持つ土地だからこそ生まれた作品、所蔵品が増えていった。西日本における大規模公立美術館の先駆けとして、時代やこの街の勢いもあったのだろう、ドガ、ルノワール、モネなど著名な画家たちの作品、また当時は新鋭だったバスキアや草間彌生の作品など話題に事欠かない。バスキアは35年ほど前に375万円で購入。現在オークションに出せば100億円とも言われている。
2020年の今、その時代に生まれ育まれた文化を継承し、さらに成熟させることができているだろうか。この街の財産の1つである美術館のコレクションを一部のアートファンだけのものにしておくのは勿体無い。コレクション展は、一般:300円、高大生:200円、小中生:100円で観覧することができる。『鉄』のついでにバスキア「消防士」やモネの「スイレン、柳の反影」を見れる美術館は他にあるはずがない。
もし、『鉄』を観る気になったのなら、是非お勧めしたいことがある。展示の中に「鉄の都で鉄の彫刻をみる」というコーナーがある。美術館のコレクションから鉄が使われた彫刻作品が紹介されている。コレクションなのだから、実際にその作品を探しに行ってみてほしい。それは磯崎新設計の美術館の建物の中に。そして周囲に広がる「美術館の森公園」の中に。物言わず誰かが来るのを待っている。
「美術館の森公園」は階段が続いたりするため、ちょっと息が切れるかもしれない。でも、所々で野外彫刻にも出会える。緑も、そこに差す光も美しい。そして、『鉄』の作品を発見した時は心が弾む。
当たり前だけど、鉄は錆びる。錆びることで朽ちる。そのことをまざまざと思い知らされた時、ただの塊にしか見えなかったものに宿る命をかすかに感じだす。
さあ、この『鉄』はどこにあるでしょう↓
北九州市立美術館本館
コレクション展Ⅲ 特集 『鉄』 2/22-5/6
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