★2/27のみ公演『まつわる紐、ほどけば風』当日券販売あり
【取材・文・撮影=鶴田弥生】
北九州での観劇のチャンスは1度きりになってしまった。北九州という街を知り、この街で新たな作品を生み出すため2年が費やされた。丁寧に紡がれてきたこれまでの時間が、北九州ではその1回の公演に注がれる。
―花衣ぬぐやまつはる紐いろいろ―
結婚を機に小倉市(現北九州市小倉北区)に住むことになった女性俳句の先駆者、杉田久女。1919(大正8)年の代表作として名高い一句。師である高浜虚子は「男子の模倣を許さぬ特別の位置に立つ」と激賞した。
帯紐を解き、腰紐を解き、着物を脱ぎ、肌襦袢を留める紐を解く。華やかさを纏った女が時間をかけ身一つになっていく過程の気怠さに艶めかしを感じ、同時に、きつく自分の身に紐を縛った時の記憶が蘇る。
北九州芸術劇場クリエイション・シリーズとして上演される舞台作品『まつわる紐、ほどけば風』。作・演出の岩崎正裕氏は、「大正から昭和初期に句作をし、度々小説の素材になるほど波乱に満ちた久女の人生を思うと“まつわる紐”を現代に置き換えれば、男性の目線であり、人間関係ではないか。女性たちはそれを解きたいと思っているのではないか」と、作品のモチーフや久女の句からタイトルを想起した旨を語ってくれた。
岩崎氏といえば、オウム真理教事件を題材にした作品『ここからは遠い国』が思い出される。今回の『まつわる紐、ほどけば風』では、世界を震撼させるような事件は起きない。しかし、毎朝毎晩、頭の中を占領するような鬱屈する理由を持つ女たちの現実が描かれる。それは、夫のことだったり、不妊だったり、独身でいることだったり、同性愛だったりする。そしてそれは、1日1日少しずつ締まってゆく紐のように徐々に痛みを伴う。振り返ると最初はちょっとした綻びでしかなかったはずなのに。
「お酒の席でも、他の地域、例えば関西の女性と九州の女性とは違う」と、言葉や行動で男を立てる九州の女性の姿が何度となく岩崎氏の目には印象的に映った。「そんな風には感じない」と記者会見時に女性から声があがったが「世代によるかもしれないが、気づいてさえないのかもしれない」と言葉を返した。
一歩外に出れば朗らかにしていても、本当に苦しんでいるから苦しいと言えない、といった状況を抱える人は少なくないだろう。現代の女たちの心身にからみつく紐をつたっていくと、その紐を掴んで締めたり緩めたりしているのは、男なのか、同じ女なのか、家族や親せきなのか、政治家なのか、何者でもないのか、自分自身なのか。苦しめるのなら、せめてコッチを向いていて――。
あぁ、観劇前なのに。この舞台の世界にどっぷりと浸かってしまっている。少し舞台稽古を見学しただけ。でもそこに自分を見た気がした。現代の普遍的なテーマであることが理解できた。
観客はきっと投げかけられるセリフが自分の叫びやパートナーの言葉に聞こえてくるだろう。私は必ず劇場に足を運ぼう。
『まつわる紐、ほどけば風』
北九州芸術劇場小劇場で 2/27(木)13:30開演。
2/28-3/1は、新型コロナウイルスへの対応に伴う公演中止が発表された。3/7・8の伊丹公演は実施予定。HPによると北九州公演については延期も検討されているそうだが、純然たる初演の熱量を是非感じてほしい。
★当日券販売などについて詳細は劇場HPへ
0コメント