場所は言わない 第2回

「花を買う人」
【取材・文・撮影=鶴田弥生】
 北九州市内の特別な場所について書いておきたい。どことは言わないけれど。

 店に入ると「すみません。今日は卒業式なんかのお祝いのお花の準備でバタバタしちゃってるんですよ」と、カフェスペースのテーブルでもブーケの準備をしている様子。新型コロナウイルスの影響で、式典やイベントが次々に中止になっている中、街の花屋さんも大変だろうと思っていたので、忙しそうにしている姿は嬉しくもあった。

 ここは花屋であり、カフェでもある。

 「アーティチョークの学名は Cynara(キナラ)でギリシャ語の cyno(犬)からきている。花の周囲の棘が犬の歯に似ていることに由来」なんていう紹介文を、ケーキセットをお願いしてからの待ち時間、ぼんやりと読んでいた。3段プレートの各種ランチや花をモチーフにしたケーキ、フルーツたっぷりのデザートなど、メニューはこの空間を壊さない優雅な気分にさせてくれるものばかり。
 シフォンケーキを温めてくれているのか甘く香ばしい香りが漂ってくる。でも、この空間を特別なものにしているのは、やっぱり花の香り。

 ケーキを食べ終え、ゆっくりとコーヒーを飲んでいると、店頭からは注文していた花束を満足そうに受け取る人たちの声が聞こえてくる。私は普段着のままふらりと立ち寄って、何てことない1日を過ごすところだった。でもここにいると、今日のこの日が特別な人たちが結構いることに気づく。普段は花を買う人をずっと眺めるなんてことないもの。
 花を買う人は、特別な日だと宣言したいのか。送るあなたは特別だと伝えたいのか。何にしても気持ちを花にしている。そういえば、ネアンデルタール人も埋葬の時に花を添えていたと聞いたことがある。真意はどうであれ美しく解釈したいと、花かケーキかどちらのおかげかは濁しておくけど、満足している私はそう思った。そして、赤いゼラニウムを買って店を出た。

Oimachi Act./おい街アクト

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