映画『モスクワ、犯された人妻の告白』。邦題のマズさからはみ出す社会的問題作

ロシア映画を最近よく観る。
貧富の差が激しく、若い人達に労働意欲がなくなっていることが、ロシアの社会問題といわれている。親族の誰かが富裕層の人と結婚したら、それが一番、楽に生活ができる。それが幸せへの近道だという風潮が、現実にはびこっているのか、その類の映画が多い。生活するための結婚があったり、それがために結婚生活がうまくいかなかったり、と。
この映画の主人公は、ソーシャルワーカーを仕事にしている人妻。夫との満たされない生活を送る中で、それが唯一の生き甲斐ともいえる女性の姿だ。夫の友人との浮気もためらいながらしても、身体は満たされていない。彼女の脇にいる人間は、いわゆる富裕層。
ある日、暴力警察官からレイプされるが、彼女の心の中では、傷つくことではなく、警察官への好奇心が沸いてくる。夫をそっちのけの生活が始まる。警察官の家に入りこんでいき、充実感のようなものを得る。
その環境は豊かさではなく貧しさだが、豊かでない分、見栄や虚勢を張る必要のない世界が、彼女を生き生きとさせてくる。
セクハラや性被害に女性が手をあげている今の世界にあって、この映画ではロシアの貧富の差の激しさの社会から起こる、生きることの虚しさを、一人の人妻と警察官の男と女の関係、見栄と本音の世界を対比させながら社会の背景を浮き彫りにしていく。
ソーシャルワーカーでありながら、被害者意識持てず、むしろ強く、自由を得たように羽ばたく一人の女性。
この映画の邦題は、映画の意図とかけ離れたミス・マッチ。実にロシアの問題を鋭く描いた作品として仕上がっている、奥が広く深い問題作だ。ロシアの他の作品を観た人ならば、本作のテーマが邦題とまるで違うと解かるはずだ。主演女優の演技も素晴らしい。


2011年ロシア作品 監督/アンジェリーナ・ニコノワ 出演/オルガ・ディホビキナヤ/セルゲイ・ボリソフ/他

●2011ヴェベチア国際映画祭正式出品作品/コトプス映画祭グランプリ/他、多数の映画祭でグランプリ受賞

Oimachi Act./おい街アクト

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