スパイ映画の決定版と言われる名作「寒い国から帰ったスパイ」
1965年のスパイ・サスペンスの傑作。この時代のスパイ映画は、東西冷戦でベルリンの壁を挟んでスパイ合戦が深く静かに繰り広げられていた。
「さらばベルリンの灯」「国際諜報局」「殺しの免許証」などの映画も公開された。スパイ映画が好きで、この「寒い国から帰ったスパイ」も劇場で観た。
007シリーズのような派手さ、見せ場の多いアクション・シーン、美しいボンド・ガールが出てきたりする娯楽的要素の強いエンターテイメントなスパイ映画は、余り好きではなかった。
スパイ映画は、暗い、ニヒリズム、デカタンス、がないとシリアスさが出ない。誰が敵か味方か判別がつかない。映画の主人公も、観る側も同じ立ち位置で、たえず疑いを持ちながら観るのがスパイ映画の醍醐味で、幻想的疑似体験するのが正道だと思っていた。
原作はジョン・ル・カレの1962年の同名小説を映画化したもの。東ベルリンに浸透していたイギリス秘書情報部の協力者、リーメックが殺されるシーンから映画は始まる。
主演のリチャード・バートンの名演技は実にスパイの虚無感を見事に演じて、英国男優賞を受賞。同時に映画は英国アカデミー賞作品賞を受賞。
元ナチ党員、ユダヤ系東ドイツの管理官、イギリスの共産女性党員も絡んで、冷酷なスパイ合戦は進んでいく。役者が揃い、モノクロのフイルムがサスペンス色を濃くしていく。誰が本者(ほんは)か、ニセ者か?観る側は主人公と同じ不安感の中に生きているようだ。これぞスパイ映画の神髄で、終始サスペンスを通した傑作だ。
●1965年イギリス映画 監督/マーティン・リット 出演/リチャード・バートン/クレア・フルーム/オスカー・ウェルナー/他
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