二人三脚で歩む暖簾の向こう側 ~麺屋一の坊~

一人でふらっとラーメン屋さんに入る女性に憧れたことがある。颯爽と暖簾をくぐる後ろ姿からは、なんとも言えぬ凛々しいオーラを感じるからだ。

そんな私が今回お邪魔したのは「麺屋 一の坊」 北九州市小倉北区竪町に店を構え、今年の 5 月で 16 周年を迎えた。

北九州市民なら、一度は店の前を通ったことがあるだろう。

北九州市はラーメン激戦区であり、そのうえ舌の肥えたお客さんも多い。
その中で長年営業し続ける大変さというのは、ラーメンビギナーの私にもはっきりとわかる。

店内に入ると、エネルギッシュな二人の男性が迎えてくれた。オーナーの寺田氏、店長の高野氏である。一の坊は開店当初から彼らが二人三脚で営業している。


この日、私の頭にあったラーメン屋のイメージは覆されることになる。

まず店に入り驚いたのはその「温かさ」だ。 
決して空調やラーメンの湯気で暖かいわけではない。では何故なのか。その理由は木にあった。

壁、床、立派な看板に至るまで店中に木が使用されている。木の香りや温かみをラーメン屋さんで楽しむことができるとは思いもしなかった。

厨房を覗くと更に驚いた。

コンロやダクトの中までもピカピカに磨かれているのだ。
最近改装したのかと聞いてしまうほど手入れの行き届いた綺麗な店内には、感動すら覚えてしまう。
あまりにも驚く私に、オーナーの寺田氏は「掃除すれば綺麗になりますから」とどこまでも謙虚な姿勢であった。

今回頂いたのは、ラーメン、チャーハン、餃子、とろ肉。
私は食レポのプロではない。
食べるのが大好きな素人としての率直な感想をしたためたい。

まずはラーメン。

あっさりとしていながらコクのあるスープ。
いい意味でとても食べやすい一杯からは、下処理の段階から掛けられた手間と愛情がしっかりと伝わってくる。

お店自慢のチャーシューもふんだんに入った大満足の一杯だ。チャーハンや餃子もまた絶妙な味わい。

その中でも特に私がオススメしたいのがとろ肉。

2 日以上の長い時間を掛けて煮込まれた照り輝く肉は、その名の通りとろりと口の中で溶けていく。食べた瞬間、心をぐっと掴んで離さない幸せの味に包まれる。
コラーゲンたっぷりのこちらの逸品は女性にこそ是非食べていただきたい。そのまま味わうのは勿論、ラーメンやチャーハンと組み合わせることによって、また新しい味わいを楽しむこともできる。もちろん酒のつまみにももってこいだ。

メニューの豊富さ、そのどれもがリーズナブルな価格な点も一の坊の魅力だ。 定番のラーメンの他に、肉野菜炒めラーメン、とろ肉ラーメン、こってりラーメンなどがあり、丼ものも人気。メニューの多くに大小が用意され ており、お腹の空き具合や好きな組み合わせで注文できるのは女性や年配の方、ファミリー層にも嬉しい気遣いである。
セットメニューが用意されているのもありがたい。
オーナーの寺田氏は建築関係の学校を卒業後、化粧品の販売に携わる仕事を経て「麺屋 一の坊」をオープン。なんとも珍しい経歴の持ち主だ。店長の高野氏は高校時代から一の坊でアルバイトをし、立ち上げの時から共に店を作り上げた。

多くの人に愛される一の坊の味は、ラーメンを愛してやまない二人が数え切れないほどのラーメンを食べてきたその舌と、試行錯誤の研究を繰り返してきた腕から導き出された「こだわりの結晶」なのである。

11 席の店内は、二人で回すには広いと感じた。注文、提供、会計、片付けを二人でこなし、合間をみて次の日の仕込みもしていく。ピーク時は特に想像を絶する闘いだろう。

夏の暑い時期には熱中症で倒れたこともあるそうだ。その忙しさの中でも、二人は常にお客さんに喜んでもらうことを一番に考えている。

二人三脚と聞いて反応してしまうのは、私自身マネージャーと二人三脚で活動しているからだろう。アイデアを出し合い、時には周りの方にも助けてもらいながら、同じ方向を見て歩いていく。

厨房の中の二人からは、パートナーであり兄弟でもあるような、16 年の歳月以上に濃い信頼関係を感じた。

「お客様の選択肢の一つにうちの店があると思うと本当に有難く、嬉しい」と店長の高野さんは話す。
その言葉に深く共感した。そうなのだ。ただ店に入り飲食をするだけではない。

一の坊にラーメンを食べに行こうと決めてその時を心待ちにし、ラーメンを食べ、余韻に浸る。
そこまでがお客様の行動である。

私に置き換えてもそうだ。
波多野菜央のライブがあるから仕事や学校を頑張ろう。そして実際に会場に足を運んで、泣いたり笑っ たりしてくださる。
まさに「誰かの楽しみになる」という私の活動の軸になる思いと同じではないか。

お客様の気持ちに応えるため、自分たちの作品を最高の状態で提供するためにしっかりと準備や研究をしていく。

納得が出来なかった場合は何時間も煮込んだスープを捨てることもあるそうだ。
それくらい妥協は許さない。
曲作りに関しても、作っては壊しを繰り返し最高 のものを作り上げる。
自分に嘘をつくということは、お客様に嘘をつくことと同じなのだ。飲食と音楽、ジャンルは違うが共通する部分が沢山あると改めて 感じた瞬間であった。

「初心を忘れない」という思いが込められた店名「麺屋 一の坊」
16 年間厨房の正面に飾られた立派な看板と相対してラーメンを作り続けてきた二人と、隅々まで愛情の行き届いた店内からは、その店名通り熱く謙虚な気持 ちと、お客様への感謝が溢れ出ていた。これからもずっと、幅広い世代のたく さんの方に愛されるお店だろう。

美味しいラーメンでお腹を満たしたと同時に、ここならば憧れの一人ラーメン女子になれることを確信して満足気に店を後にした波多野菜央であった。


取材・文・写真
シンガーソングライター 波多野菜央

▲(左)高野氏(中央 )波多野菜央(右)寺田氏

【麺屋 一の坊】
福岡県北九州市小倉北区竪町 1-2-34
TEL/093-561-3181
営業時間/11:00~21:00
定休日/火曜日定休(祝・祭日営業)・盆・正月 
アクセス/最寄り JR 西小倉駅から徒歩約 5 分
駐車場/有
※状況により営業時間が変更になる場合がります。

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